研究所通信「知の森」第2号 

学校園再開時の学級づくり ~ユニバーサルデザイン化の視点から考える~

 教育委員会や学校園は、学校園再開にあたり、国が示すガイドラインや「学校の新しい生活様式」と題した衛生管理マニュアルに基づき、感染予防対策を徹底するなど、安全・安心に配慮しながら子どもたちの学びを止めない取組を進めていかなければなりません。
再開を待ち遠しく思い、元気にふるまっていても、実はいろいろなストレスや悩みを抱えている子どもがいるはずです。また、中には、発達に課題のある子どもや個別的な配慮が必要な子どももいます。ストレスを感じている子どもや発達に課題のある子ども(個別的な配慮の必要な子ども)は、「学校の新しい生活様式」などの環境や状況になじみにくい特徴があります。だから、私たちはそういった子どもに対してアンテナを高く広く張りめぐらさなければなりません。
再開後の学級づくりに向けて、どんなつまずきが表れるのかを具体的にシミュレーションするためには、ユニバーサルデザイン化の視点から考えることも大切です。学級づくりに向けてのポイントを以下の4つにまとめました。

(1)場の構造化
 「学校の新しい生活様式」では、感染レベルに応じた個人や集団での感染予防対策が求められます。例えば、学習道具など可能な限り使い回しを避けることが必要となってきます。商店の買い物カゴが「消毒済み」、「使用済み」のものに分かりやく表示されるようになりました。これも、場の構造化といえます。個人の学習道具や共同で使った物、消毒液の置き場所など、入園入学した園児や1年生でも分かりやすい場の構造化を考えてみましょう。

(2)刺激量の調整
 近年どの教室にも必要以上に前面掲示がされないようになってきました。。もしかしたら、教室の前面に感染予防を啓発するポスターや張り紙が掲示にされる教室もあるかもしれません。必要なことかもしれませんが、例えば、授業中は掲示板をカーテンで覆ったり、特に必要な時間だけ黒板に貼ったりするなど刺激量を調整することも大切です。これは、視覚に限った調整だけではありません。

(3)ルールの明確化
 感染予防のルールなど、いつも以上に学校生活のルールを守る機会が増えることでしょう。しかしながら、ルールが守れなかったり、ルールを守ること自体が嫌だったりする子どももいます。ルールを守った体験が少ない子どもは、ルールを守るという窮屈さに耐えられなくなります。窮屈さに耐えるためには、筋力トレーニングと同じように、生活に負荷を与える。つまり、ルールを守る体験を生み重ねていかなければなりません。
 また、集団生活が苦手な子どもや、暗黙のルールを理解することが苦手な子どもは、ルールを守った体験量が不足がちです。当たり前ですが、ルールを守るために、ルールを確認できるようにする必要があります。例えば、当番の仕事内容を札に書いて見える化して、仕事が終わると札をひっくり返すことで「ルールを守った体験」が積み重ねられます。大阪府が感染予防の状況を緑色や黄色や赤色で表しているのもそういった工夫ではないでしょうか。
 さらに、暗黙のルールに弱い子どもたちのためにも、暗黙のルールをつくらないということも大切です。場面ごとにどんな行動をとれば良いか、どの行動がだめかを明確化することが有効でしょう。例えば、「感染予防をしよう」だけでなく、「授業中はマスクをする」などそれぞれの場面でどういった行動をとれば良いのか、とってはいけないのかを明確化すると良いでしょう。

(4)子ども同士の相互関係
 行動の基本に「三項随伴性(さんこうずいはんせい)」という考え方があります。簡単に言えば、人間がある「行動」をする前には、「先行事象」があり、行動をとったあとには「後続事象(結果)」が起こるということです。行動に直接アプローチするのではなく、取り巻く環境(先行事象)を変化させることによって行動を変化させようというものです。
 「学校の新しい生活様式」になじめない子どもは少なからずいるでしょう。例えば、マスクが苦手な子どもには「先行操作」としては、飛沫を防ぐシートをはるなどの工夫も必要でしょう。
 暗黙のルールが分からないということだけでなく、根本にあるのは誰もが「分からない」と言える教室をつくることです。学級の子どもたちがお互いの友だちの状態を理解し、受け入れることができれば、子ども同士で助け合うことができるようになり、学級環境が整います。だから、子どもの相互理解は学級経営のための大事な視点です。「分からない」と言う子どもすべてに対応できる学級づくりを意識しましょう。また、一人一人が目標を立て、それに向かって努力することも効果的です。目標の内容や得手不得手は違っていても、みんな目標達成に向かって努力しているんだと子ども同士が理解できれば、クラス全体の相互理解も深まります。

 学級担任にとっては、感染予防のために会話など交流することに制限はありますが、対話の工夫は考えられます。例えば、書くことやICTの活用等です。ぜひ、対話の工夫を通して、子ども一人一人と話し合ったり、助言したり、こまめにほめたりすることで子どもとの信頼関係を築いてください。
 
 今後、学校園の再開において、みなさんで協議し、追加・修正を行うなど、子どもの発達や学年や学級の状況に応じて活用ください。

【参考文献】 授業のユニバーサルデザイン入門 東洋館出版社
        i-チェックハンドブック2 東京書籍